映画廃人・井伊古里の夢ブログ

実在しない映画の感想を延々と書いたり、日常で作ってみたものをあげてみたり。小さくても一生懸命生きています。

『理想の女』(2006・邦画)

 

どうも、井伊古里です。

 

先日、家族に会ってきてとても楽しいひと時を過ごしました。

 

その時、ちょろっと話題に上がったことが『期待』でした。

我々人間は、どうしても他人には期待してしまう生き物。

それが近くなれば尚更です。

期待を互いに押し付けあって双方が疲れるくらいなら、たまにちょっと会うくらいの方が相手に期待や依存もしきらないかもしれません。

そちらの方が、結果として長くうまく行く場合もありますね。

 

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なんでもそうですが、離れるほどやっぱり美化されるような傾向はある程度見られる気がしています。

死人に勝てないのもその一つですよね。

 

人は皆、自分の理想を一番に愛してしまいがちなのでしょう。

ともすると、相手本人よりも。

 

ということで、

 

『理想の女』(2006・邦画)

 

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【あらすじ】

人間社会が嫌いな一人の男、野田光逸。

彼は、ある時美しい絵画を買い、その絵画に描かれている女性を寝食忘れるほどに愛するようになった。

ある時、その絵画の女性が動き始め、会話ができるようになるー…。

 

 

絵画の女性が話し始めて、初めは喜んでいた野田ですが…。

さて、これは、ミニシアターで上映されていた映画ですね。

 

はちゃめちゃに面白いわけではないけれど、なんとなく雰囲気があります。

後、いろんな絵画や絵の女の人が象徴的に表されててそこは素直にかなり良かった。

 

 

 

 

最初のスタートは、駅の改札を出て男が足早で歩いて行くシーンです。

この男が野田。

絵画が好きで博物館とか美術館とかを巡っているようです。

 

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そんな彼は、周囲のお店には興味なし。

八百屋に並ぶ美味しそうなフルーツにも目をくれず、博物館を一目散に目指します。

 

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博物館で、彼は絵画を鑑賞します。

完全に無音で、時が止まったかのような感じ。

ここは映画館で観るべきですね。

 

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宗教画とかいろんな女の人とかの絵画がたくさん出てくるんだけど、野田が観てるだけじゃなくて、野田もまた見られてるような感じ。

 

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ちなみに彼が鑑賞していた絵画には、フルーツが描かれているものもありました。

ってお前、さっき八百屋のフルーツには目もくれなかったじゃろがいw

 

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そして、野田はその帰りに少年の頃、モナリザの絵画の前で呆然と立ち竦んだことを思い出しています。

どうやら初恋はモナリザのようですね。

 

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夢のようなひと時を過ごし、帰宅した野田は自分の生活に戻ります。

映像の色合いも、先ほどと比べてどことなく暗い。

そして、夕食の準備をします。

 

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そもそもこの野田という男はかなり神経質なんですね。

アーティスト気質というか、自分のスタイルを曲げられない。

映画の中でも、机のセッティングとかご飯の食べ方とかそういうマイルールがいくつも出てくる。

 

 

そんな職人気質の野田は現実に不満を抱えているんですね。

だから現実の世界の映像は、どことなく色調が抑え目で暗い。

一方、絵画が映されているシーンや画材などを映すシーンは、それが暗めのものでも明るくて鮮やかに映しているんですよ。

 

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そんな野田がね、たまたま露店で売ってた絵画を購入して、それでもって絵画の女性と会話するようになって。

少しは現実世界も明るく映るようになるわけです。

こんなの、野田、良かったね…って思うじゃないですか。

 

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絵画の女性は、これまたミステリアスかつ柔和な感じだ口数は少なくてね。

貴方たち、お似合いですよって。

それでも男を心配して、ついポツポツ注意してしまう女心。

 

 

それが気に食わなかったんでしょうね。

最初は相思相愛って感じだった二人だけれど、だんだん空気が冷えていく。

 

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絵画の女性を映す色合いがね、どんどんくすんで暗くなっていくのが、如実に野田の心が離れていくのを表してるの。

辛い。

 

 

そして決定的なのが、言い争いの後。

野田が間違えてお茶を溢した時。

 

溢してしまったお茶が絵画にかかってしまうんですよ。

それでも、野田は絵画を拭きにいかなかった…。

 

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外は雨がザーザー振っていて、沈黙だけがただ流れているっていう。

二人の溝はもう決定的だと分かるシーンですね。

 

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そして遂にね。

 

遂に、野田は、黒い絵具で女性の顔を全て塗りつぶしてしまうんですね。

 

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印象的なのが、彼女の顔に黒く筋が塗られたところ。

何も言わないんだけれど、彼女は、野田に黒い絵具で顔を塗られた時に、そこをそっと優しく触れるんですよ。

 

愛した男からの仕打ちに、塗りつぶされる前に絵画の女性は何を思ったのかなぁ。

 

 

 

そして、場面は暗転します。

顔が完全に塗りつぶされ、真っ暗になった絵画。

 

そして、ようやく安堵で野田が笑うんです。

凄い満足そうな笑顔がドアップになって終了。

 

 

世にも珍妙な物語であれば、この後、絵画の世界に男が閉じ込められるとか体が入れ替わるとかそんななのでしょうけどね。

 

単館系の映画だから、そんなこともなく。

塗りつぶされて男が笑うシーンでそのままエンドロール。

 

そして、実はラストの男が笑うところ。

男が笑っているシーンが映るのは映画の中でここだけなんですよね。

 

 

絵画の女性が消えて初めて野田は本当に安心して心からの笑みを浮かべられたんですね。

でも、野田を愛していた絵画の女性はその笑顔が見れないんですよ。

塗りつぶされているから。

 

 

絵画の女性の気持ちを考えるとなんとも言えなくなってしまいますが、野田的には理想のままでいて欲しかったということなのでしょうね。

人間の傲慢さとかままならなさとかすごく詰め込まれた映画でした。

 

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